Researches

X-ray Shielding Material

Radiation Protection

  レントゲン博士によってX線が発見されてから100年以上が過ぎ,現代医療ではX線撮影は必要不可欠なツールになりました.X線を利用することによって,人体の内部を非破壊かつ低侵襲で投資することができるようになりました.

  患者さんにとっては非常にメリットの高いX線ですが,日常的にX線を使う医療従事者にとっては,X線による職業被曝が原因となり,健康を害する恐れがあります.

  人体をX線から防護するためには,プロテクターの使用が推奨されています.例えば,防護眼鏡,甲状腺シールド,防護衣などの製品があります.私たちも物理学の知見を活かして,より医療従事者に優しい防護製品を開発できないかと考え,基礎研究を始めました.

Concept of Novel X-ray Shield

  X線の遮蔽を行うには,高原子番号物質で薄い金属箔を有する遮蔽体を作るという考えが常識でした.商用の放射線防護製品には(a)に示されるように,鉛が使われています.この遮蔽体の遮蔽性能は非常に素晴らしいのですが,金属箔を使っているために柔軟性や通気性が無く,身体にフィットしにくいという課題もありました.

  一方で(b)に示すいわゆるスポンジとして知られているポリウレタンフォームは柔軟性も通気性もありますが,放射線の遮蔽性能はありません.

  我々は,(c)に示すように,スポンジに金属粒子を付着させることで,新しい機能を有するX線遮蔽体を作れないかと発想し,基礎研究を行っています.



関連特許

  • X線遮蔽シート

    林裕晃,前田達哉,真木基允,小西武四,村上修一

    特願2020-105659,特開2021-135278

    2020

    J-PlatPat

  • Using Bi particles

      X線の遮蔽には,高原子番号金属の使用が有利です.なぜならば,高原子番号物質は,光電効果を起こす割合が高いからです.

      一方で,原子番号が高く安価な金属である鉛(Z=82)は,毒性がある事が知られており,環境や人体には必ずしも良い物質ではありません.そこで,鉛の代替としてビスマス(Z=83)の使用を視野に入れています.

      ビスマスは酸化物(Bi2O3)で安定し,細かい粒子になりますので我々の使用用途に合致しています.欠点は,比較的高価である事や酸化物で使用する際に酸素原子の質量分だけ重くなってしまう事です.そこで,全ての用途を狙うのではなく,特定の用途に限定して新しいBi遮蔽体を開発して見ようと思い至りました.

    Issues When Using Small Particles

      金属板でX線を遮蔽できることは理解できるけど,細かい金属粒子(Particle)で遮蔽できるのか?と疑問を持つ人も多いと思います.

      そこでまず,金属粒子の粒径が遮蔽率に与える影響を調査しました.理論的に考えると,粒径は小さければ小さいほど良いです.大きな粒子を用いると,X線の透過経路上で相互作用をしない部分が出来てしまい,結果として遮蔽率を下げてしまうからです.

      金属粒子を三次元的に均一に分散させるために,紙粘土を使いました.この発想は共同研究先の株式会社メディテックジャパンの研究員の方が発想されました.素晴らしいですね!



    関連論文

  • Experimental study of X-ray dose reduction factor when using various size bismuth and lead particles

    Tatsuya Maeda, Hiroaki Hayashi, Cheonghae Lee, Miku Ando, Kazuki Takegami, Natsumi Kimoto, Takeshi Konishi, Shuichi Murakami, Motochika Maki, Kazuta Yamashita, Kosaku Higashino

    Radiation Physics and Chemistry, 195, 110049(11 pages), 2022

    DOI:10.1016/j.radphyschem.2022.110049

    論文ダウンロード(ScienceDirect)

  • Small Particles Are Available

      金属粒子の粒径のサイズが遮蔽率に与える影響を調べるのは,実験的なアプローチが適しています.なぜならば,シミュレーション計算で多数の粒子を再現することは難しいからです.

      実験をしたところ,100μm以下の粒子であれば,遮蔽体に用いることができることが分かってきました.世の中に公表されている遮蔽体関係の論文の多くはシミュレーションスタディで行っています.我々の実験データが先行研究のサポートデータになりました.


    Application to CT

      開発したスポンジ遮蔽体の応用を目指すために,胸部CT検査での甲状腺の被ばく線量低減に挑戦しました.

      胸部CT検査では肺野をスキャンし,基本的には甲状腺はスキャン範囲外に位置しますので,甲状腺の被ばくは少ないです.しかし,この考えは必ずしも現実の患者さん全員に当てはまるものではありません

      首が短い人や伸ばせない人は,どうしても甲状腺が照射野の中に入ってしまうという事もあるかもしれません.そこで,このような背景を基に,CT検査(画像検査)に影響を与えないような甲状腺遮蔽体を開発しました.



    関連論文

  • Thyroid dose reduction shield with the generation of less artifacts used for fast chest CT examination

    Kazuki TAKEGAMI, Hiroaki HAYASHI, Tatsuya MAEDA, Cheonghae LEE, Rina NISHIGAMI, Takashi ASAHARA, Sota GOTO, Daiki KOBAYASHI, Miku ANDO, Yuki KANAZAWA, Kazuta YAMASHITA, Kosaku HIGASHINO, Shuichi MURAKAMI, Takeshi KONISHI, Motochika MAKI

    Radiation Physics and Chemistry, 203, 110635(12 pages), 2023

    DOI:10.1016/j.radphyschem.2022.110635

    論文ダウンロード(ScienceDirect)

  • Thiroid Shield

      我々が開発したX線遮蔽体は,襟巻のようにして使います.患者さんが自分の意志で遮蔽体を装着することができますので,不安の低減にも役に立ちます.

      甲状腺遮蔽には特にスポンジのクッション性が良くマッチしています.ノドボトケに触れても,全く痛くありません.



    関連特許

  • アーチファクトを低減可能なX線遮蔽シート

    林裕晃,竹上和希,前田達哉,真木基允,小西武四,村上修一

    特願2020-67902,特開2021-146162

    2020

    J-PlatPat

  • Experiment Using CT


      実験は研究室所有の人体ファントムを用いて,臨床用CTで行いました.線量の計測には,nanoDot OSL線量計を使いました.研究室で行う実験は,精度を高めるために多数回測定を行います.患者さんに着用してもらう臨床試験を行う前に,ファントムで思う存分調べられるのは非常に良いことです.

      開発した遮蔽体のもう一つの重要な特徴は,アーチファクトを発生させず,診断用のCT画像を乱さないことです.

    Development of elastic x-ray shield

      弾性のあるスポンジに金属粒子を付着させることで,通気性および弾力性のあるX線遮蔽体を制作できます.

      ちょっとしたユニークなアイデアをサイエンスとして深めて論文にできると本当に充実感がありますね.


    関連論文

  • Performance of elastic X-ray shield made by embedding Bi2O3 particles in porous polyurethane

    Tatsuya MAEDA, Hiroaki HAYASHI, Miku ANDO, Daiki KOBAYASHI, Rina NISHIGAMI, Takashi ASAHARA, Sota GOTO, Cheonghae LEE, Kazuta YAMASHITA, Kosaku HIGASHINO, Takeshi KONISHI, Shuichi MURAKAMI, Motochika MAKI

    Medical Physics, 1-13, 2023

    DOI:10.1002/mp.16889

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