Lecture Notes

学内用の講義資料と,高校生などを対象とした教材を公開します.

01学内公開用講義資料(PWつき)

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02初学者/高校生用の教材

X線用の箔検電器

  X線実験用に開発した箔検電器の動画です.放射線物理学の初回講義の際にビデオで見せています.

  左側に見えるのは臨床用のレントゲン装置(一般X線撮影装置)です.動画は,①箔検電器を開かせる,②X線を下側の空気領域(下の部屋)に打ち込む,という順番になっています.

  X線には電離作用があるので,空気分子が電離することで,箔から出る電場に“電離で生じた電子”が引き寄せられて,中和されます.結果として箔が閉じるという現象が起こります.

  今度は,箔が存在する上の部屋と,X線を照射する下の部屋を,アクリルの板を使って物理的に遮断して見ましょう.どのような変化が起こるでしょうか?

  箔は開いたままでした.下の部屋では空気は電離しているはずですが,電離によって生成した電子(やイオン)はアクリルによって遮断され,上の部屋に移動できません.

  さらに工夫をして,上下の部屋を隔てる“セパレータ”に金属メッシュ(電気的に接地させている)を入れたとしたらどうなるでしょうか?

  X線の照射時に,箔が若干の動きを見せるものの,「箔は開いたまま」であるという実験結果が得られました.金属メッシュは電子やイオンを通すことができますが,泊から出ている電場は金属メッシュで止まってしまうため,下の部屋まで到達しません.つまり,偶然メッシュを通り抜けることができた電子のみが箔に到達したと理解できます.

  以上の一連の実験から,X線が空気に照射されると“空気が電離する”という物理現象を理解することが出来ました.




  本研究の成果は下記の論文にて公開しています.

セパレータを有する箔検電器の製作と診断用X線装置を用いた実験の提案
松浦 貴明, 林 裕晃, 花光 宏樹, 西原 貞光
日本放射線技術学会雑誌, Vol.69, No.3, 239-243頁, 2013年
論文ダウンロード(J-Stage)

X線用の霧箱

  霧箱は,放射線(=荷電粒子)の軌跡を可視化できる実験装置で,放射線物理学の黎明期には様々な研究の発展を支えました.ウィルソン型の霧箱は原理が非常に簡単なため,研究室レベルでも自作が可能です.

  この動画は,霧箱の中に故意に放射線を入れない状態(つまりバックグランドの状態)で観測される軌跡をビデオにしたものです. 自然界に存在するγ線が霧箱内の原子と相互作用し,光電効果やコンプトン散乱で発生した電子が多数見えています.電子の飛跡は複雑に曲がり,エネルギー付与は小さいので,ジグザグの細い線が多数見えると思います. 時折,5cm程度の太い白いラインが見えますが,これは222Rnが崩壊した際に放出されるα線が見えています.α線はエネルギー付与が大きく,すぐにエネルギーを失ってしまうため,このような真っすぐな太い線(飛跡)として観測できます.

  2分過ぎの画面左側に非常にはっきりとした長いラインを見ることが出来ます.これはミューオンによるものです.ミューオンは宇宙線によって作られますが,霧箱に対して横方向から入射するのは非常にレアで,このイベントを録画するために非常に多くの時間がかかりました.

  次にお見せする動画は,画面右側より1mmに絞ったX線のビームを霧箱の中に入射したときの動画です.X線は霧箱の中に設置された鉛に向かって照射されています.さて,どんなことが分かりますか?

  まず,X線は鉛によって完全に止まって(遮蔽されて)いることが分かります.臨床でも,不必要なX線に曝露されないように鉛エプロンを着ることがありますが,鉛を用いることで効果的にX線を吸収できることが分かります.

  右から入射するX線のビーム軸は,白く見えますね.これは,ビーム軸上でX線の照射によって発生した電子が運動した軌跡です.エネルギーを持った電子は広がりますので,ビームが太くなったように錯覚してしまいます.

  目が慣れてくると,照射直後に霧箱全体に小さな雲の塊のようなものが一瞬出ることに気が付きます.これは,①ビーム軸上で入射X線がコンプトン散乱をして散乱X線が霧箱の中に拡散する,②散乱X線が光電効果もしくはコンプトン散乱をして電子が発生する,という物理現象の考察によって理解できます. 霧箱はあくまでも直接電離放射線である荷電粒子の軌跡を可視化するための装置なので,間接電離放射線であるX線の飛跡は見えないというところを考察できると,この現象を理解できるようになると思います.




  本研究の成果は下記の論文にて公開しています.

薄膜の入射窓を有する霧箱の開発とX線撮影装置及び非密封放射性同位元素を用いた初学者に対する実習の提案
小西 有貴, 林 裕晃, 竹上 和希, 福田 郁磨, 上野 淳二
日本放射線技術学会雑誌, Vol.70, No.1, 26-33頁, 2014年
DOI:10.6009/jjrt.2014_JSRT_70.1.26
論文ダウンロード(J-Stage)