Researches
Dosimetry
Concept of Dosimetry
米国ランダウア社から発売されている光刺激ルミネッセンス(Optically Stimulated Luminescence: OSL)線量計を用いて,被ばく線量測定ができないかと考え,様々な研究を行いました.
nanoDot OSL線量計として売り出されているものは特に小型で画像にも影響を与えにくいため,医療における被ばく線量の実測が行えるのではないかと考え,基礎研究を行いました.
一般的な被ばく線量測定手法は,電離箱線量計を用いたファントムスタディです.この方法は確立していますが,患者さんの被ばく線量の実測などには適用できないという本質的な欠点があります.OSL線量計を用いて,実測という新しい世界を切り拓きたいと思い至りました.
Characteristics
OSL線量計はAl2O3:Cで作られており,実効原子番号が人体と比べて比較的高いため,角度依存性やエネルギー依存性の問題点を解決し,校正定数を正しく算出する必要があります.
校正定数とは,線量計を読み取った際に得られる計数値(Counts)を,吸収線量である空気カーマ(Gy)に変換するためのファクターです.
How to measure...
この図面は,OSL線量計の測定原理の概念図を示したものです.まず,X線が線量計に入射し,光電効果を経てエネルギーを持った電子を作ります.そしてこの電子が線量計の中でエネルギーを付与することで,数多の電子がConduction bandに移行します.
Conduction bandに励起した電子のほとんどはすぐに脱励起しますが,ごく一部の電子が不純物準位(SET, IET, DET)にトラップされます.この状態が,「線量が記録された」状態です.
トラップされた電子の個数を読み取ることが出来れば,線量情報を読み出せます.そこで,540nmのLED光を外部から照射し,不純物準位にトラップされている電子を再び励起します.励起してConduction bandに移行した電子はすぐに脱励起し,その際に420nmのLuminescence光を発します.この光の強度を読み取り装置で計数し,線量に換算しています.
Multiple Readings
最初に検討しなければいけないことは,精度よく測定するための多数回読み取り手法を確立する事です.
OSL線量計はトラップされている電子を少しずつ励起しながら測定をするので,読み取り回数を多くすればするほど強度が低下してしまいます.これを光量損失(Signal depletion)と言います.そこで,あらかじめどのように計数値が減少していくのかを調べ,補正を行います.
下記文献では,線量計の読み取り時の光量損失の補正に加えて,線量計の個体差の決定精度なども評価しています.単に実験・照射をして読み取ればよいという線量計ではないので,取り扱いには注意が必要です.
関連論文
OSL線量計の繰り返し読み取りによる高精度測定
林 裕晃, 中川 滉平, 沖野 啓樹, 竹上 和希, 岡崎 徹, 小林 育夫
医用画像情報学会雑誌, Vol.31, No.2, 28-34頁, 2014年
DOI:10.11318/mii.31.28
Multiple Readings
線量計を初期化するには,大光量のライトを常時当てておく必要があります.このような装置は,ランダウア社ではAnnealerと読んでおりますが,Breaching machineという言い方も正しそうです.
研究を始めた当初は,まだ蛍光管が入手できましたので,熱帯魚用のライトを改造してAnnealerを作りました.
関連論文
OSL線量計の繰り返し読み取りによる高精度測定
林 裕晃, 中川 滉平, 沖野 啓樹, 竹上 和希, 岡崎 徹, 小林 育夫
医用画像情報学会雑誌, Vol.31, No.2, 28-34頁, 2014年
DOI:10.11318/mii.31.28
Annealer
大強度のLEDライトが手に入るようになってからは,AnnealerはLEDに移行しています.
大学のラボで3台のLED型Annealerを制作しました.フライス盤を使った工作は非常に楽しく,同時に工作の様々な基礎を学ぶことが出来ました.
Practical Calibration Curve
OSL線量計の校正を真面目にやろうと思うと,非常に大変です.臨床でOSL線量計を使う人も多くの苦労があるのではないかと想像しました.
そこで,丁寧な校正をしなくても誤差を大きく付ければ,実用的に使うことが出来るのではないかと発想し,論文を書きました.Practical(=実用的な)は大好きな英単語のひとつです.
この研究は海外やOSL線量計の開発者からも高く評価してもらえました.多くの研究者の方に引用してもらえて,感慨深いです.RSNAでも4mポスターで発表し,アワードを2件いただきました.
関連論文
Practical calibration curve of small-type optically stimulated luminescence (OSL) dosimeter for evaluation of entrance-skin dose in the diagnostic X-ray region
Kazuki Takegami, Hiroaki Hayashi, Hiroki Okino, Natsumi Kimoto, Itsumi Maehata, Yuki Kanazawa, Tohru Okazaki and Ikuo Kobayashi
Radiological Physics and Technology, Vol.8, No.2, pp.286-294, 2015
DOI:10.1007/s12194-015-0318-1
Angular Dependence
OSL線量計は球対称ではないので,角度依存性の把握は非常に重要です.角度依存性とは,X線が線量計に対して正面方向から入射した場合と,他の方向(例えば側面)から入射した場合の効率が異なる事を言います.
臨床で線量計を使用した場合には,様々な角度からX線が入射することが想定され,角度依存性を把握していないと線量の誤評価につながります.角度依存性について研究し,角度依存性が少なくなるような線量計の開発のための知見を得ようと考えました.
関連論文
Procedure to measure angular dependences of personal dosimeters by means of diagnostic X-ray equipment
Hiroaki Hayashi, Kazuki Takegami, Hiroki Okino, Kohei Nakagawa, Tohru Okazaki and Ikuo Kobayashi
Medical Imaging and Information Sciences, Vol.32, No.1, pp.8-14, 2015
DOI:10.11318/mii.32.8
Measurements during CT Exam.
CT検査における線量の実測は,大きな目標のひとつです.なぜならば,線量計を貼り付けるという行為がCT画像に大きな悪影響を与えないからです.一方で,マルチスライスCT装置でヘリカルスキャンをした場合には表面線量は一定ではなくなるため,測定では注意が必要です.
ひとまず下記の論文では,一般的に認められているフイルムによる計測結果とOSL線量計の計測結果が一致することを示しました.
関連論文
Entrance surface dose measurements using a small OSL dosimeter with a computed tomography scanner having 320 rows of detectors
Kazuki Takegami, Hiroaki Hayashi, Kenji Yamada, Yoshiki Mihara, Natsumi Kimoto, Yuki Kanazawa, Kousaku Higashino, Kazuta Yamashita, Fumio Hayashi, Tohru Okazaki, Takuya Hashizume and Ikuo Kobayashi
Radiological Physics and Technology, Vol.10, No.1, pp.49-59, 2017
DOI:10.1007/s12194-016-0366-1
Cadaveric Study for CT
徳島大学の山下一太医師(整形外科)との共同研究で,ご遺体にOSL線量計を埋め込んで,臓器線量を実測する
という研究を行いました.この研究で医療に対する興味が一層強くなると共に,我々が開発してきた基礎知識を医学にも生かせるという自信をつけることが出来ました.関連論文
Direct measurement of radiation exposure dose to individual organs during diagnostic computed tomography examination: A cadaveric study
Kazuta Yamashita, Kosaku Higashino, Hiroaki Hayashi, Kazuki Takegami, Fumio Hayashi, Yoshihiro Tsuruo, Koichi Sairyo
Scientific Report, 11(1):5435(10 pages), 2021
DOI:10.1038/s41598-021-85060-5
Energy Dependence
OSL線量計のエネルギー依存性を測定しました.単色X線に対する応答特性を評価するために,診断用の連続X線を金属を含む試料に照射し,この試料から放出される特性X線を用いて解析を行いました,
関連論文
Energy dependence measurement of small-type optically stimulated luminescence (OSL) dosimeter by means of characteristic X-rays induced with general diagnostic X-ray equipment
Kazuki Takegami, Hiroaki Hayashi, Hiroki Okino, Natsumi Kimoto, Itsumi Maehata, Yuki Kanazawa, Tohru Okazaki, Takuya Hashizume and Ikuo Kobayashi
Radiological Physics and Technology, Vol.9, No.1, pp.99-108, 2016
DOI:10.1007/s12194-015-0339-9
Precise Calibration Procedure
連続X線スペクトルは,被写体を透過したり散乱することによって実効エネルギーが変化します.そのことが影響し,OSL線量計の校正定数が変化してしまうため,これらを正しく考慮した校正手法を開発する必要がありました.
そこで,モンテカルロシミュレーションコードEGS5を用いてX線スペクトルの変化を調べ,様々な被写体や散乱角度に対応した校正定数を算出するアルゴリズムを開発しました.さらにこれらの結果を小児X線撮影の介助者の被ばく線量測定に応用し,実測データを公表しました.
関連論文
Exposure dose measurement during diagnostic pediatric X-ray examination using an optically stimulated luminescence (OSL) dosimeter based on precise dose calibration taking into consideration variation of X-ray spectra
Takashi ASAHARA, Hiroaki HAYASHI, Sota GOTO, Emi TOMITA, Natsumi KIMOTO, Yoshiki MIHARA, Takumi ASAKAWA, Yuki KANAZAWA, Akitoshi KATSUMATA, Kosaku HIGASHINO, Kazuta YAMASHITA, Tohru OKAZAKI, Takuya HASHIZUME
Radiation Measurements, 119, pp.209-219, 2018
DOI: 10.1016/j.radmeas.2018.10.007
Procedure to Analyze Eye-Lenz Dose
水晶体線量の上限値の見直しが行われたことを受けて,水晶体線量を実測する動きが出て来ました. 一方で,放射線計測の観点から正しい線量測定の在り方を考えると,鉛を含む防護眼鏡を透過したX線はビームハードニングしており,このことがOSL線量計のエネルギー依存性に影響し,OSL線量計の校正定数がずれてしまう事も懸念されました.
そこで,水晶体の線量測定にOSL線量計を応用した際に,校正定数にどのような影響が出るのかを調べました.詳細な研究の結果,影響が小さいという事を示すことが出来ました.水晶体測定の研究をする場合には,ぜひこの論文を引用していただければ,校正定数の変化という悩みから解放されると思います.
関連論文
Evaluation of calibration factor of OSLD toward eye lens exposure dose measurement of medical staff during IVR
Takashi ASAHARA, Hiroaki HAYASHI, Sota GOTO, Natsumi KIMOTO, Kazuki TAKEGAMI, Tatsuya MAEDA, Yuki KANAZAWA, Tohru OKAZAKI, Takuya HASHIZUME
Journal of Applied Clinical Medical Physics, 21(11), 263-271, 2020
DOI:10.1002/acm2.13042
Rectum Dose Measurements
長瀬ランダウア社との共同研究をきっかけとして,OSL線量計の素材であるOSLシートを独自に入手できました.そしてこのシートを用いて,カテーテルに取り付けることができる直腸線量計を開発しました.
放射線を用いた子宮頸癌治療では,正常組織である直腸への線量を下げる必要があります.なぜならば,直腸は放射線感受性が高く,治療による副作用が出やすいからです.本研究では,実際に線量計を開発し,臨床試験において直腸線量を実測しました.基礎研究だけでなく,臨床研究にまで発展させられることができた一つの成功例になりました.
関連論文
A disposable OSL dosimeter for in-vivo measurement of rectum dose during brachytherapy
Hiroaki HAYASHI, Natsumi KIMOTO, Tatsuya MAEDA, Emi TOMITA, Takashi ASAHARA, Sota GOTO, Yuki KANAZAWA, Yasufumi SHITAKUBO, Kanako SAKURAGAWA, Hitoshi IKUSHIMA, Tohru OKAZAKI, Takuya HASHIZUME
Medical Physics, 48(8), 4621-4635, 2021
DOI:10.1002/mp.14857
i-Dot Dosimeter
長年の研究によって,「OSL線量計の角度依存性の発生原因は,横方向から入射したX線が線量計の中で吸収され,X線スペクトルが変化することで生じる」ということが分かりました.
そこで線量計を横から見た時に,素子が重ならないように配置することで,角度依存性を改善できるのではないかと考え,線量計の試作品を作ってみました.Eyeにように見えることから,我々は勝手にi-Dotと呼んでいます.この線量計が世の中に受け入れられる日を首を長くして待っています.
関連論文
An idea to reduce angular dependence of dosimeter having a disk-shaped detection region
Sota GOTO, Hiroaki HAYASHI, Takashi ASAHARA, Natsumi KIMOTO, Emi TOMITA, Kazuki TAKEGAMI, Takumi ASAKAWA, Yuki KANAZAWA, Tohru OKAZAKI, Takuya HASHIZUME
Radiation Measurements, 137, 106323(9pages), 2020
DOI:10.1016/j.radmeas.2020.106323
Checking Chip
OSL線量計で高精度の線量測定を行うのは非常に難しいです.中でも,読み取り装置の感度が変化するという事実に気が付ける人は少ないのではないでしょうか?せっかく測定を行っても,読み取り装置の感度変化があると測定値がずれてしまいます.
このような問題点を抜本的に解決するために,読み取り装置の感度変化を検知するための「超安定化素子(=Checking Chip)」の開発を行いました.この素子のレシピは非常に単純なので,ぜひ全国でOSL線量計を使っている研究者に広まって欲しいと願っています.
関連論文
Signal-stabilized Al2O3:C-OSL dosimeter “checking chip”for correcting OSL reader sensitivity variation
Sota GOTO, Hiroaki HAYASHI, Hidetoshi YAMAGUCHI, Ryuji AKINO, Morihito SHIMIZU
Radiation Measurements, 160, 106893 (8 pages), 2022
DOI:10.1016/j.radmeas.2022.106893
Unique Dosimeter
放射線線量計の角度依存性を小さくするという努力をした人は大勢いると思います.しかし,わざと角度依存性をつけることで,X線の入射角度を算出線量計を作った人は居ないと思います.
動物が複眼で獲物との距離を測るとか,フクロウが非対称の耳を持っていて距離を測るとか,世の中には真似られるアイデアに溢れているものですね.
本線量計を用いて解析した放射線の入射角度の情報が,放射線診断(X線透視)での医師の被曝低減を目指す教育ツールに役立てられればと願っています.
関連論文
A wearable active-type X-ray dosimeter having novel functions to derive both incident direction and absolute exposure dose
Takashi ASAHARA, Hiroaki HAYASHI, Tatsuya MAEDA, Sota GOTO, Daiki KOBAYASHI, Rina NISHIGAMI, Cheonghae LEE, Miku ANDO, Yuki KANAZAWA, Satoshi IMAJO, Kazuta YAMASHITA, Kosaku HIGASHINO
Radiation Physics and Chemistry, 208, 110932(11 pages), 2023
DOI:10.1016/j.radphyschem.2023.110932
Optimized Unique Dosimeter
角度の情報を得ることができるユニークな放射線検出器の設計の最適化も行いました.
臨床使用の準備が整いましたので,次は臨床研究にチャレンジしてみたいですね.
関連論文
Evaluation of lower detection limit and performance analyses related to the incident angle of X-rays and absolute dose using a triple-type dosimeter
Takashi ASAHARA, Hiroaki HAYASHI, Tatsuya MAEDA, Daiki KOBAYASHI, Rina NISHIGAMI, Sota Goto, Miku ANDO, Natsumi Kimoto, Yuki KANAZAWA, Kazuta YAMASHITA
Radiation Measurements, 175, 107148(9 pages), 2024
DOI:10.1016/j.radmeas.2024.107148