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Pin-hole Camera
初学者教育を目的として,散乱X線を可視化できるピンホールカメラを開発しました.臨床でX線画像検出器として使用する輝尽性蛍光体プレートを組み込んで使用します.
可視光のピンホールカメラは,太陽光が被写体に当たって生じた散乱光を使ってイメージングします.この際,余計な光がカメラの中に入射しないように,黒い紙などでカメラの本体を製作します.
一方,この研究では,X線が被写体に照射されコンプトン散乱で発生した散乱X線を用います.余計な散乱X線がカメラの中に入射しないように,X線遮蔽性能の高い鉛で本体を製作しました.
関連論文
輝尽性蛍光体プレートを用いたピンホールカメラの開発と散乱X線分布および可視光画像の撮影
林 裕晃, 谷内 翔, 神谷 尚武, 西原 貞光, 富永 正英
日本放射線技術学会雑誌, Vol.68, No.3, 307-311頁, 2012年
DOI:10.6009/jjrt.2012_JSRT_68.3.307
Annular Camera
ピンホールカメラの改良版として,円環の入射窓を持つカメラも作ってみました.図に示すように,このカメラは点線源から放出されるX線の発生位置を特定することが出来ます. 複雑な被写体からの散乱X線の発生の解析には不向きですが,X線の発生位置を簡便に特定できるのは用途によっては勝手が良いと思います.
この装置を用いて,非破壊検査装置背面のからの漏洩X線の発生位置を解析したことがありました.その結果,焦点から発生する直接X線の遮蔽が甘く,漏洩X線となることが分かりました. 漏洩X線は多重散乱によるものであると考えがちですが,意外と散乱する確率は低く,直接X線が減弱しきれなかった成分が残ることもるのだと学びました.
関連論文
円環コリメータカメラを用いた漏洩X線源の同定手法
林 裕晃, 村上 淳, 花光 宏樹, 西原 貞光, 武田 俊一
日本放射線安全管理学会誌, Vol.12, No.1, 30-35頁, 2012年
DOI:10.11269/jjrsm.12.30
Cloud chamber
放射線の飛跡を見る装置と言えば,「霧箱」です.科学館などで大型の霧箱が展示されており,その様子は見ていて飽きませんね.
一方で,商用の霧箱は小型装置でも数十万円し,大学で購入するのは若干厳しい価格帯にあります. また,作りがしっかりとしていて壁面も存在するのでX線や放射性同位元素から放出される放射線(電子線)を外部から打ち込むという用途にも向いていません.
それであれば作れば良いと考え,実習用に作ってみました.最もポイントになる点は,内部に電場を作るということです.放射線が空気を電離させた後に妙なイオンが残留すると,新しい放射線が空気を電離しても奇麗に電子雲を作ってくれません.
背景を真っ黒にするのもポイントです.非常に小さいサイズの簡易霧箱であれば黒い紙で代用できますが,ちゃんとした実験装置ではそうもいかないので,焼付塗装をした銅板を底面に敷いてあります. 底面は室温からドライアイス温度(-20度)まで冷却され,さらに内部がエタノールで満たされることから,通常の塗料では色落ちしてしまいます. 焼付塗装は自動車の外装にも用いられるものであり,このような用途に適していました.
関連論文
薄膜の入射窓を有する霧箱の開発とX線撮影装置及び非密封放射性同位元素を用いた初学者に対する実習の提案
小西 有貴, 林 裕晃, 竹上 和希, 福田 郁磨, 上野 淳二
日本放射線技術学会雑誌, Vol.70, No.1, 26-33頁, 2014年
DOI:10.6009/jjrt.2014_JSRT_70.1.26
Leaf Electrode
いわゆる「箔検電器」ですが,初学者が医療用のX線撮影装置を用いた実験に適した実習用装置です.かなり使い勝手が良く,高校生の知識でも現象を理解できるのは良いですね.
放射線物理学の1時間目の宿題として,「箔検電器の動画を見せてX線の電離作用について考える」という課題を出しています.箔の開閉という地味な動作ながら,目に見えないX線の照射状況を体感できるのは良いですね.
関連論文
セパレータを有する箔検電器の製作と診断用X線装置を用いた実験の提案
松浦 貴明, 林 裕晃, 花光 宏樹, 西原 貞光
日本放射線技術学会雑誌, Vol.69, No.3, 239-243頁, 2013年
DOI:10.6009/jjrt.2013_JSRT_69.3.239
Experimental apparatus for Compton scattering
この装置も学部実習での1テーマとして遂行するために製作しました.コンプトン散乱は必ず理解しなければいけない物理現象です.理論は「クライン・仁科の式」で与えられますが比較的理解が難しく,うまく教えられないという苦労がありました.
そこで発想を転換し,散乱X線の分布を可視化する装置を製作して実習のテーマのひとつにしようと考えました.この装置の外部からX線をビームに絞って入射させます.装置の中央には散乱体を設置し,コンプトン散乱させます.コンプトン散乱したX線はクライン仁科の式に従って放出されるので,遮蔽箱内部に臨床用の画像検出器を配置することでその分布を画像化します.
この分布は物理学的に解析することができ,「クライン・仁科の式」と比べるところまでが実習項目です.実験を通して散乱X線の分布関数を直感的に理解し,さらにクライン・仁科の式を使わないとレポートが書けないという,狙いを持った教育用の装置でした.
関連論文
診断領域における散乱X線の可視化装置の製作と実習の提案
岸田 弥奈, 林 裕晃, 窪薮 友美, 竹上 和希, 井上 直, 花光 宏樹, 西原 貞光
日本放射線技術学会雑誌, Vol.69, No.5, 500-507頁, 2013年
DOI:10.6009/jjrt.2013_JSRT_69.5.500
Experimental apparatus for Input-output characteristics (I)
X線画像検出器の「入出力特性」は,X線画像検出器の特性を評価したり線量ベースの画像解析をする際に必要な特性です.一般的には,X線の照射時間を変化させて特性を取得する「タイムスケール法」や,X線管と検出器の距離を離すことでX線の照射量を変化させる「距離法」が知られています.しかし,これらの方法はデータ取得に時間がかかるという問題がありました.
そこで,1回のX線照射で一度にデータを撮れないかと考え,タイムスケール法を応用した実験装置を製作しました.X線は,複数の異なる長さのスリットを通して検出器に入射しますが,スリットをX線照射中に動かすことで,検出器に入射するX線量を制御できます.
この研究は,研究室配属前の学部学生(2年生)と共に行いました.懐かしい思い出になってしまいましたが,またこういう発想で面白い実験装置を作ってみたいものです.
関連論文
動的マルチスリットを用いたコンピューティッドラジオグラフィシステムの特性曲線の取得
竹上 和希, 林 裕晃, 紀本 夏実, 前畑 伊採, 野々宮 泉, 福田 郁磨, 小西 有貴
医用画像情報学会雑誌, Vol.30, No.3, 53-56頁, 2013年
DOI:10.11318/mii.30.53
Experimental apparatus for Input-output characteristics (II)
X線画像検出器の入出力特性を簡便に取得するためのマルチスリット法を発表した後に,もっとコンパクトな実験装置を作れないかと工夫しました.そこで考え付いたアイデアは,スリットの動きを2段階にするという発想でした.
この装置は改良型マルチスリット装置と命名し,論文化をしました.マルチスリット装置の欠点が見事に克服されており,容易に持ち運び&セッティングができます.
これらの実験をする過程で,画像検出器の他の特性を理解し,理解を深めることができました.今日の研究の礎になっているかと思うと,非常に感慨深いものがあります.
関連論文
輝尽性蛍光体プレートに対する入出力特性の測定のための一体型マルチスリット装置の製作
紀本 夏実, 林 裕晃, 前畑 伊採, 野々宮 泉, 竹上 和希, 小西 有貴, 氏田 将平, 福田 郁磨
日本放射線技術学会雑誌, Vol.69, No.10, 1165-1171頁, 2013年
DOI:10.6009/jjrt.2013_JSRT_69.10.1165